こんにちは! アニメイキングの黒木白桃です
『serial experiments lain』(シリアルエクスペリメンツレイン)を紹介します。今から22年以上前に放送され、現代社会を予言した作品といえる
パソコンの普及率が20%・インターネットの普及率が15%を切っていた時代1998年。いやぁ、あの時代なつかしいな~、まだ生まれてねーけど。現代ではPCはもちろん、スマートフォン・タブレット、さらにはエアコンや自動車などの「モノがつながる時代」IoTが現実化し始める
そして、未来では人類は肉体を捨て、意識だけの存在になることも議論される時代までせまってきている。『serial experiments lain』は今だからこそ見る「過去からのメッセージ」だ
『serial experiments lain』評価
1.メッセージ性 行動までも動かすことが出来るか 2.構成・脚本 1話1話の完成度と、伏線などを使った全体的なストーリーの面白さ・スゴさ 3.演出 表現方法の鮮やかさ(メタファーなど) 細部をきちんと描写しているか? キャラクターの心理描写。例えば、視線の動き・表情の細やかさを描いているか?など 4.オリジナリティー 他の作品には真似できない強いパワーを感じるか 5.キャラクターの魅力 可愛さやかっこよさ、どれだけ共感するか 好きになれるキャラクターや、魅力ある悪役が居るか 6.音楽 何度も聞きたくなるクセになる曲か。SE(効果音)の作りこみは高いか 7.作画 絵は安定しているか。背景の美しさや、動きに迫力があるか カメラワークは良いか 3DCGと手描きがマッチし、違和感がないか 8.見やすさ・カジュアル度 ☆4や☆5であればサックと見れる、他人に薦めやすい作品 ☆0や1はグロだったり、重い・特殊な作品でかなり人を選ぶもの伝えたいことがどれだけ明確か。心を動かされ、その
上から順に重視する。0-5ポイントで評価し、最小単位が0.5ポイント。
1.5等外 2.0悪 2.5可 3.0中 3.5良 4.0上 4.5極上 5.0完璧
総評
間違いなく価値ある作品だが、難しすぎる。メッセージ性・テーマ性はもちろん、玲音の心理変化・周りの対応などが急速に変わることが怖い! おばけ、流血シーン・犯罪の臭いがしないのに、ここまで「怖さ」を見せてくることが凄い。気軽に薦めることは絶対ないが、興味を持ったなら、必ず見て欲しい作品だ
『serial experiments lain(レイン)』3つのおすすめポイント!
『serial experiments lain』のおすすめポイントを3つ紹介する
インターネットにのめり込んでいく、主人公 玲音(れいん)の変化が面白い
1話冒頭では、メールでのやり取りが苦手で、機械にうとい玲音。そんな少女が回を重ねるごとに、機械・ネットワークに詳しくなっていく。例えば、最初の方は最新式大型PCに変えたり、自作PCを作ったりする。果てには、常にパソコンやネットワークが機能するように、自室に冷却装置まで作る始末だ
急速な変化をとげる玲音に、恐怖・不気味さまで感じる。突発的な変化の連続で、もしかして玲音って二重人格じゃないのか?という疑問すら浮かんでくる。彼女の変化に加えて、演出の斬新さ,神の定義,見えないものが見えたり、死者からのメールが来たりする。これらが『serial experiments lain』という作品を、より恐ろしいものされせくる。怖いといっても、それは直接的な・生命がおびやかされる怖さではない。未知に対する怖さ「畏怖」「畏敬」の方が近いかもしれない
しかし、よく見てみると突発的な変化に見えて、きちんと「フリ」がある。玲音が大きく変化するのは2話・4話・6話だ。フリに気付かなければ、「え? なんで玲音ってこんな風になってんの!? あれ?前回見逃したっけ? …いや、この回で合ってるよな…」となっていまう。だが、1話・3話・5話の心理変化・制作陣の意図やメッセージに気付けば、よく出来ている構成だなと感心できる
22年前に現代社会を予言!
リード文にも書いたが、この作品が放送されたのは1998年7月6日だ。今から22年以上もさかのぼる。パソコンの普及率が20%・インターネットの普及率が15%を切っていた時代だ。Windows95が発売されて3年、ようやく一般化し始めてきたとき。そんな時代に「プロトコル・マザーボード・メインプロセッサー・エミュレーション・デュープ・シームレス」などの、よく分からない言葉が飛び交っている。今でこそ、それなりに聞く言葉になったが、IT分野が苦手な人は今でもあまり馴染みのない言葉に感じるだろう
作中では、現代社会ではよく目にすることの描写が、日常的な風景として描かれている。例えば、ネットに夢中になり、目の前に居る現実の人間とのコミュニケーションがおろそかになったり。周りの人間から見れば、あきらかに変わっているにも関わらず、自覚症状がなかったり。心あたりがないモノがLINEやTwitterで広がっていくみたいに「うわさ」としてどんどん拡散されてしまう現象があったりとする
また、その見せ方が素晴らしい! 特にピックアップしたいのは8話Aパートのネット上(作中ではワイヤード)の人々だ。この人々というのが特徴的な姿をしている。体と口だけのキャラがいっぱい出てくる。そのモブキャラたちは、それぞれが自由に発言している。聞く器官である「耳」が描かれていない。つまり、ネット上は「自分の言いたいことしかない世界」と皮肉めいたメッセージを感じる。ここまでリアルな描写は現代社会を予言したように見える
↑8話Aパート 口だけの人々たち↑
ヒトの在り方を問いかけてくる哲学的作品
作中でよく「肉体」と「意識」という言葉が飛び交っている。ヒトの魂や精神というモノはどこにあるのか?ということを常に問いかけてくる
「本当の自分」とは何か? 「本当の自分」はどこに居るのか? そもそも、本当に「自分」という存在は居るのか?
時代が流れるにつれ、「現実」と「ネットワーク」の境界線が曖昧になってきている。VR・AI・IoT技術はもちろん、ヒトの体にインプラントチップを埋め込む、「バイオハッキング」が迫ってきている。これは何もSFだけの世界ではない、もう現実になているのだ
今年(2020年)に入り、内閣府は「ムーンショット計画/目標」を発表している
2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
これが実現すれば、間違いなく今よりも「豊か」な生活を送れるはずだ。私たちが普段当たり前のように使っているスマートフォン。スマホの普及で格段に生活が良くなった。スマホの歴史はせいぜい10年~15年だ。今スマホを手放せ!と言われて、手放せる人はどれくらい居るだろうか?
産業革命が起こったのは、約170年前だ。ヒト種が生まれたのは1万3000年前。170年という数字は人類史から見ると、あまりにも小さい数字だ
私たちの生活は、時代が進むにたび確実に良くなってきた。マンモスや貝類を食べてきた時代から、小麦や米を自分たちで育てる時代に。電球が世界から夜を消した。自動車・新幹線・飛行機によって、移動時間を大幅に減らしたり。電話回線が場所という概念を消した
我々はもう過去には戻れない。過去から見たら現代はうらやしいほど豊かだ。私たちの暮らしは間違いなく、確実に良い方向に向かっている。では、そんな「豊かな生活」を送っているあなたに問いかける
あなた、いま幸せですか?
豊かな時代になった現代だからこそ、ヒトの在り方を今一度考える必要がある。この『serial experiments lain』をきっかけに考えて欲しい。この作品で「答え」は出ないけど、あなたの考えを「支える」価値ある作品になるはずだ
『シリアルエクスペリメンツレイン』感想・考察・解説 ネタバレあり
どこに居たって、人は繋がっているのよ
このセリフは玲音が2話ラストで、銃口を向けた男にといったセリフだ。もう、どういう状況なのか、さっぱり分からない
「なんで、この男は玲音に対して、ひどくおびえているのだろうか?」
「そもそも、なぜ男は玲音を知っていて、玲音はこの男を知らないのか?」
「1話から玲音の性格・様子変わり過ぎじゃない?」
そんなシーンに、思考は複雑に絡まり合い、ぐるぐると回る。そして、そんな考えをしている間に、その男が自ら己の頭部に銃口を突き、自殺する。「は!? なんでや、なんでそうなったんや? なんぜなんぜ?」本当に何が何だか意味が分からない
しかし、よく見ると1話のフリだったり、3話以降でなぜこういう状況になったのか?という説明がつくのが、この『serial experiments lain』という作品の凄い所だ
この2話ラストのシーンの疑問は大きく分けて2つある。1つは「玲音がなぜ変化したか?」 もう1つは「なぜ、男は玲音を知っていたか?」という、玲音側、男側での立場で考えることができる
1話序盤の玲音と、2話ラストの玲音は“同一人物”なのだろうか?
なぜ、メールなど「他人と繋がること」を避けていた彼女が、なぜ凄腕のハッカーになったのだろうか? 彼女の最初の変化点はどこか? それは1話Bパートの「いつものように電車に乗って通学してきたときに起きた、電車の緊急停止シーン」だったと感じる
↑緊急停止で、体勢が崩れそうになる玲音↑
↑体勢が完全に崩れ、尻もちををつく↑
↑立ち上がり、電車のケーブルを見る↑
そこで玲音が見たものとは、電車のケーブルを伝ってきた「垂れた血」だった。その1カット後に白1色の画面。そして、なぜか交差点に立っている玲音。その次に、駅の階段→校庭→自宅の台所→いつもの通学路→白い煙につつまれ、霧がかかっている日の線路の上→教室で授業を受けている と目まぐるしく場面展開する
制作陣の意図は何か? この演出とは何が伝えたいのか?
私が思うに「肉体と意識の切り離し」が出来るよー、と伝えたかったシーンだ。これだけ短時間の間に、7つの場所を移動することは不可能だ。肉体というものは時間的制約の中でしばられている。じゃあ、なぜ玲音は7つの場所を素早く移動できたのか? これは凄く単純で、「意識だけを飛ばした」からだ。意識・精神・魂というモノは自由にどこでも行けるということを伝えたかったかに見える
このころから、玲音という存在は2つに分裂し、「肉体」と「意識」それぞれが独立した人物像を作り出したと感じた。さらに、2話のサブタイトルが「GIRLS」という点だ。単数形であるGIRL(少女)ではなく、複数形であるGIRLS(少女たち)になっていることから、1話ラストの時点で玲音は2人・2人以上いたと考えるのが自然だ
「肉体」と「意識・魂・精神」の違いについて
「肉体」と「意識」の1番大きな違いは、【固定的か? 流動的か?】である点だと、私は考える。先ほどの「電車シーン」でも述べたが、肉体というものは時間的制約の中でしばられている、と書いた。これは逆にいえば、時間的制約の中で「守られている」といって良い
作中では“肉体は不要”という言葉がたびたび出てくる。しかし、私はこの言葉に賛同はできない。確かに、肉体というモノは魂を入れておく「器」に過ぎない。だが、器が無くなれば、魂は不安定な状態になる。例えるならば、水が魂でコップが肉体と考えることが出来る
コップを無くしたり壊れたりすると、当然中に入っている水は漏れ出してしまう。水はどこにでも行くことができ、自在に形を変えることができる。自由なぶん不安定で「本来の形」というものがない
そのため、「己の魂」と「他者の魂」が混ざり合うことは珍しくない。だって「本来の形」なんてモノは無いのだから。そうして新しく生まれ、独立した意識体が存在することとなる。だから、自分の知らない自分というモノはいるから、人々から玲音を見たという証言が飛び交ってくる
そうした不安定で流動的な「意識」を、固定的な「肉体」という器に入れておく。そうすることで、己は己なんだ! ということを胸に生きて行ける
呼応し、対比になっているセリフが面白い!
どこに居たって、人は繋がっているのよ
2話ラスト
親なんていらない。人間なんて、たった1人なんだよ。誰ともつながってなんか無い
4話冒頭
違うよ。そんなに境界ってきちんとしてないみたいだよ。心配しないで、あたしはあたしだもの
4話終盤
あたし、また分かんなくなっちゃって。あたしがいるの、こっちなのか、そっち側なのか。あたし、そっち側のどこにだっている。それは知ってるの。だって繋がってるんだもの。でしょ? でも、あたしの…本当のあたしのいるところって、どこ…?
13話冒頭
『レイン』を無料視聴するには?
1.dアニメストア
2.Netflix
3.Amazonプライム・ビデオ
7.Hulu
まとめ:とてつもなく難解で人を選ぶアニメだが、インターネット社会の現実を予言している
はっきり言って、この作品は難しすぎる!! 自分でも書いていて、この解釈で良いのかな?、説明ちゃんと出来てるかな? と不安になってしまった。まだ1回目の視聴で思考が十分整理できていないが、書いていくうちに多少なりと自分の持論が書けれたのかなと感じる
普段90年代アニメは見ない…普段どころか、今までまったく見てこなかったといっていい。強いていえば、エヴァ序破Q・美少女戦士セーラームーンCrystal(2014年夏放送だが)・キョロちゃん・ポケモンあたりか
90年代アニメは現代アニメにはない独特な作品が数多く存在する。その中でも、特に異彩を放っているこの作品『serial experiments lain』シリアルエクスペリメンツレイン
難しく・意味が分からなく・頭がぐるぐるなるが、この難しさを是非とも楽しんでほしい。間違いなく歴史に残る価値ある作品だ
玲音は私の記憶の中で、いや私たちの記憶の中で彼女は生き続けている
あなたの〈アニメライフ〉に少しでも役に立ったのなら、記事を書いた甲斐がありました。最後まで読んでくれてありがとう。ではまた、黒木白桃でした
アニメ『serial experiments lain』(レイン)の作品概要
放送時期 | 1998年夏 7~9月 全13話 |
制作会社 | 有限会社トライアングルスタッフ
2000年12月頃にアニメーション制作事業を停止 同会社が手掛けた他作品
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監督 | 中村隆太郎(なかむら りゅうたろう)
2013年死去
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シリーズ構成 | 小中千昭(こなか ちあき)
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キャラクターデザイン | 安倍吉俊(あべ よしとし)-キャラ原案
岸田隆宏(きしだ たかひろ)
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主題歌 | オープニング「DUVET」@bôa
エンディング「遠い叫び」仲井戸‘CHABO’麗市 |
主演声優 | 清水香里,川澄綾子,浅田葉子 |
あらすじ
コミュニケーション用コンピュータネットワーク端末「NAVI」(ナビ)が普及した現代、中学生14歳の少女:岩倉玲音(いわくら れいん)は、死んだはずの四方田千砂(よもだ ちさ)からのメールを受け取る。その日以来、玲音は見えないはずのものを見るようになる。四方田千砂のメールの言葉に興味を持ち、大型の「NAVI」を手に入れるが、それ以来更に奇怪な事件に巻き込まれていく。物理世界(リアルワールド)と電脳世界(ワイヤード)、二つの世界・二人の玲音(lain)が混濁し錯綜する果てにあるものは? 「人は誰しも“繋がれて”いる」「私は遍在する」
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